自動車保険をはじめて契約する人が気になることの一つに、「補償内容ごとの設定金額はいくらがいいの?」というのがあると思います。
自動車保険の補償は大きく、対人賠償、対物賠償、人身傷害、車両保険の4つに分類されますが、それぞれに対して金額を設定する必要があるのです。この記事では、補償ごとの設定金額の目安について解説していきます。
目次
1. 対人賠償保険の設定金額はいくらが最適?
対人賠償保険とは、交通事故の相手方を死傷させてしまった場合の補償で、法律で加入が義務付けられている自賠責保険ではまかないきれない損害を補填します。そのため、自賠責保険の補償金額とあわせて確認するのがよいでしょう。
1-1. 自賠責保険の補償内容とは?
まずは自賠責保険の補償内容をおさらいします。自賠責保険は、事故の相手方が被った3つの損害に対して補償される保険です。
3つの損害への具体的な補償内容ですが、①相手がけがなどをした場合は治療費・慰謝料・休業補償を合計して最大120万円、②相手が死亡した場合は最大3,000万円、③相手に後遺障害が残った場合には最大4,000万円が補償されます。
対人賠償保険は、これらの損害を超えた分に対して補償がなされます。
1-2. 相手方にけがをさせた場合の治療費の目安
具体的な賠償額をみていきましょう。
まずは相手にけがをさせてしまった場合の治療費等の損害の目安ですが、これはけがの度合いによって変わります。たとえば数回の通院で済むようなけがであれば、多くても数十万円で済むかと思われます。入院や手術を伴うけがの治療の場合は、100万円を軽く超えてしまうおそれがあります。
また、相手が健康保険を使ってけがの治療をしたとしても、治療費全額を支払う(10割負担)必要があります(相手方から自己負担分1割~3割、健康保険から立替分7割~9割の請求があるため)。それに加えて、相手が病院に通う交通費や仕事を休んだ場合の休業補償なども必要となるため、入院や治療が長くなればなるほど高額になります。
1-3. 相手方を死亡させた場合の賠償額の目安
自賠責保険では最大3,000万円まで補償されますが、実際に相手を死亡させてしまった場合はどれくらいの賠償額が必要になるのでしょうか?実は賠償額は、「一律でいくら」とは決まっていないのです。相手方の年齢や職業、年収によって賠償額が算出されるからです。
大雑把にいうと、年齢が若い人であったり、高収入の仕事をしていたりする人に対する賠償額は、高くなります。過去の判例を見ると、41歳の医師を死亡させた場合の賠償額が、約5億2,800万円にものぼったことがあります。賠償額には上限がないため、自賠責保険ではとてもまかないきれない金額になることがあるのです。
1-4. 後遺障害が残った場合の賠償額の目安
相手に後遺障害が残ってしまった場合の賠償額は、障害の度合い(介護をどれくらい要するのか)によって変わってきます。
介護を受けるには費用がかさみますし、後遺障害を負ってそれまでしていた仕事ができなくなることもあり得ます。後遺障害は、身体に与えた障害のみならず、障害を負ったことによる将来の損失に対しても補償をしなければなりません。高額な賠償金額となった判例では、21歳の大学生に後遺障害を負わせたものがあり賠償額は約3億9,700万円でした。自賠責保険でまかないきれない部分は、全額自己負担となります。
1-5. 対人賠償保険の設定金額は無制限に!
相手に損害を与えた場合、最大で数億円もの賠償をしなくてはならないおそれがあります。対人賠償保険は数千万円単位で設定することができますが、多少保険料が高くなっても設定金額は無制限とすることをおすすめします。
2. 対物賠償保険の設定金額はいくらが最適?
次に、対物賠償保険の設定金額について確認します。対物賠償保険は、事故相手の車、建物、ガードレール、電柱などを破損させてしまった場合の補償になります。
2-1. 対物賠償保険は相手の財産を補償する保険
対物賠償保険について、おさらいしておきましょう。対物賠償保険はその名のとおり、モノへの損害を賠償をする保険です。「相手の車にしか補償が適用されない」と思う人も多いかもしれませんが、モノであれば対象となります。
たとえば、家(住居)やその建物に付随するブロック塀、信号機、ガードレールなども対物賠償保険の対象です。信号機やガードレールは公共物のため、国や地方自治体への賠償ということになります。
2-2. 対物事故における賠償費用の目安
事故による対物賠償保険で賠償する、金額の目安を考えましょう。
まずは、ガードレールを壊してしまった場合の賠償費用。あくまで参考価格ですが、ガードレールは1mあたりで5,000円~5万円程度の費用がかかり、さらに工事費用の負担もあります。交通事故で車の積み荷を破損させてしまった場合などは、賠償額が高額になることもあります。過去の判例では、呉服や毛皮など高額な衣類の賠償額総額が約2億6,000万円になったことがあります。とあるパチンコ店に対する損害賠償では、認定総損害額が約1億3,000万円になりました。
近年はアクセルとブレーキの踏み間違いにより、店舗を破損してしまう事故もよくあります。このような場合、店舗の修繕費用だけでなく修繕期間中の営業損害の補償もしなればなりません。
2-3. 相手の車を修理する場合の修理費用の目安
相手の車の修理費用は、車種や事故の程度によって異なります。大衆車の場合は、バンパー交換で数万円、フレーム修正を伴う場合で30万円~50万円が平均値となるでしょう。
いっぽうで高級外車になると、バンパー交換だけでも100万円以上の修理費がかかることがあります。確率は非常に低いですが、高級外車を複数台巻き込むような最悪のケースでは、何百万円もの賠償額が発生するかもしれないことを頭に入れておきましょう。
2-4. 対物賠償保険の設定金額は無制限に!
対物賠償保険の設定金額は、前述したような賠償金を自分自身で払えるかどうかで決めていきましょう。数億円の賠償金でも支払える資産があれば必要ないかもしれませんが、一般的にそのような大金を支払うのは難しいと思いますので、対物賠償保険は無制限にしておくのがよいでしょう。
3. 人身傷害保険の設定金額はいくらが最適?
対人賠償保険と同様、人の死傷に対して支払われる人身傷害保険。対人賠償保険とどういった違いがあるのかを踏まえて、設定金額を決めていきましょう。
3-1. 人身傷害保険で支払われる費用の範囲は?
人身傷害保険で支払われる保険金は、『補償の対象となる人が死傷した場合に、過失の有無に関係なく、治療費や休業損害などを補償する』というものです。対人賠償保険は相手方への補償なので自分自身への補償は含まれませんが、人身傷害保険は契約車側の補償なので自身(運転者)を含む同乗者に対して保険金が支払われます。人身傷害保険を付けていない場合、お互いに過失割合がある自動車事故では、自分の過失割合分の治療費などは自己負担となります。
たとえば、交通事故の損害額が3,000万円で過失割合が30(自分):70(相手)の場合、相手からの賠償は2,100万円で、残りの900万円は自己負担になります。人身傷害保険を付けていれば、この自己負担分が補填されます。相手からの賠償金の支払いがない場合は、その額についても補償されます。
3-2. 搭乗者傷害保険は人身傷害保険の上乗せ
人身傷害保険と混同されがちな搭乗者傷害保険、両者の違いがよく分からないという人も多いかと思いますので、解説します。
人身傷害保険が、けがの治療費、休業補償、慰謝料、など実際に受けた損害額を補償するのに対して、搭乗者傷害保険は、実際にかかった費用に関係なく契約時に決めた額が支払われます。つまり搭乗者傷害保険に加入していれば、被った損害額が確定する前に保険金が支払われることになります。
金額があらかじめ決まっているため保険金の支払いはスピーディーですが、保険金額を超える損害があった場合、超過分は自分で負担しなければなりません。搭乗者傷害保険は、人身傷害補償保険に上乗せして加入することが一般的です。補償を手厚くしておきたい人は、加入を検討してもよいでしょう。
3-3. 生命保険に加入していれば人身傷害保険はいらない?
自分自身の補償について、「生命保険に入っているから必要ない」という考えの人もいるでしょう。自分ひとりだけ車に乗っているのであればそれで問題ないかもしれませんが、困るのは同乗者がいるときです。
自分で加入している生命保険は自分にしか適用されないため、同乗者に万が一のことがあった場合、自分の生命保険を使うことができません。同乗者が死傷したときの補償を確保するため、人身傷害保険は加入しておくことをおすすめします。
3-4. 人身傷害保険の設定金額は3,000万円~1億円の範囲で!
人身傷害保険の設定金額をいくらにするかは、多くの人が悩む問題です。無制限とするのが理想的ではありますが、人身傷害保険加入者のデータを見ると、無制限に設定している割合はそれほど多くありません。
加入者のおよそ6割が3,000万円で、およそ3割が3,000万円以上1億円以下で設定しているようです。こうした実情を考慮し、3,000万円~1億円の範囲で設定しておくのがよいのではないでしょうか。
4. 車両保険の設定金額はいくらが最適?
自分の車を保険で修理することができる、車両保険の設定金額について見ていきましょう。車両保険の設定金額は少々分かりにくい部分があるかと思いますので、そのしくみと修理費用の概算を見ながら理解を深めていきましょう。
4-1. 車両保険金額の設定金額はどう決まる?
まず、車両保険金額の決まり方について確認します。
車両保険の設定金額は、対象となる車の型式、グレード、年式をもとに決められています。保険会社ごとにその車に対する価格表が設けられており、これをもとにして金額が設定されます。オプションを多く取り付けている場合には、設定金額を上回ってしまうこともよくあります。このようなときは、車の注文書を添付して購入にかかった総額を明示することで、車両本体+オプション総額の車両保険金額を設定することができます。
なお、中古車を購入した場合は経過年数が加味され、必ずしも購入価格と同額になるとは限りませんので注意が必要です。
4-2. ちょっとこすった場合の修理費用
まずは、もっとも軽微といえる、ブロック塀やガードレールにこすって傷がついた場合の修理費用について確認します。傷の修理費用は、ぶつけた部位によって大きく変わります。
国産車の場合、バンパーの傷だと手のひらで収まるくらいの範囲であれば3万円~5万円、ボディの鉄板部分の傷で5万円~10万円くらいが目安となります。パール塗装など塗装工程が多い塗装をされている車では、プラス数万円の増額となります。
4-3. 追突した(追突された)場合の修理費用
相手の車との追突では、衝撃の大きさによって修理費用が大きく変わります。低速での追突であれば、バンパー交換のみで済むことも多く、5万円~12万円が修理費用の相場となります。
時速30㎞程度で追突した場合は、バンパーより内側の骨格部分で破損が起こっていることが多く、損傷度合によっては総額で30万円以上の修理費がかかります。
4-4. 台風や洪水などで冠水した場合の修理費用
近年では、自然災害が原因による車の損害も増えてきています。よく目にするのは、台風や集中豪雨が原因となった洪水被害です。
洪水が発生すると、駐車場などに停めてある車が水没してしまう被害が増えますが、水に浸かった(冠水した)車の修理費は高くつきます。内装の清掃や交換、張り巡らされた電気系統の配線交換、場合によってはエンジンやトランスミッションの交換も必要となるためです。冠水した場合の修理費は、数十万円~100万円超となるのが一般的です。
4-5. 車両保険の設定金額
車両保険の設定金額に迷った場合、全損事故で車を買い替えることを前提に、かけられる最大限の保険金額に設定することをおすすめします。「当て逃げや自損事故は自己負担でいい」という考えであれば、補償範囲を一般条件からエコノミーに狭めることを検討してもよいかもしれません。
5. まとめ:相手に対する補償を充実させよう
交通事故は起こらないに越したことはありませんが、意図せずに起こるものです。自動車保険にかけられる予算が限られていたとしても、最低限相手への補償は充実させることが、車を所有し公道で走らせることの責務といえるでしょう。
自動車保険の補償内容についてくわしく知りたい方は、【はじめての自動車保険】補償内容はどうする?をご覧ください。
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WRITER
宇野 源一(ライター)
大学卒業後、大手メーカー系自動車販売会社に勤務。在職中は個人顧客を中心に年間平均60台の新車を販売。自動車保険の見直し提案などの経験も豊富。その後、金融業界に精通した業務・教育支援を行う会社に転職し、法人営業に従事するとともに、2級ファイナンシャル・プランニング技能士およびAFP資格を取得。2018年よりライターとして活動を開始。新車ディーラー業界の裏話やファイナンシャルプランナーの視点から見た車購入アドバイス、ガジェット紹介等を得意とする。私生活では3児とうさぎ2羽の父。2級ファイナンシャル・プランニング技能士、AFP(日本FP協会認定)